今も健在?日本の安全神話と外国人労働者の暮らし
2025.08.28

日本は長年にわたって「世界でも有数の安全な国」として広く認知されてきました。この「安全神話」は、観光客やビジネスパーソンのみならず、外国人労働者にとっても大きな魅力要因となっています。しかし、本当にその安全神話は今も健在なのでしょうか。近年、詐欺や窃盗、差別的行為など、外国人労働者が犯罪リスクに直面する事例も報告されています。言語の壁や異文化に対する無理解が原因でトラブルの標的になる可能性も否定できません。
本記事では、日本の「安全神話」の背景を振り返りつつ、日本の治安がどの程度世界的に見て優位性を保っているのかを考察します。そのうえで、外国人労働者を取り巻く犯罪リスクやトラブル事例を洗い出し、企業や行政、そして外国人労働者自身が実践すべき具体的な安全策を提示します。日本の安全神話がすべての外国人労働者に当てはまるわけではない現実をしっかりと把握し、安全な暮らしを実現するための行動を起こすきっかけとなれば幸いです。
日本の安全神話と外国人労働者の期待
日本が「安全な国」と評価される背景には、いくつかの要因があります。まず、犯罪発生件数の少なさや凶悪犯罪の少なさが挙げられます。警察庁が公表している資料によれば、近年は刑法犯認知件数(いわゆる犯罪が認知された総数)が長期的に減少傾向にあります。
さらに、公共交通機関が整備されており、夜間でも女性や子どもが一人で外を歩けるケースが多いといった点も「安全な国」という評価を支えています。これらの情報が海外で報じられることで、「日本なら安心して暮らせる」というイメージが形成されているのです。
一方、海外から見ると、治安の良さに驚くエピソードが数多く紹介されています。例えば、電車やカフェで財布やスマートフォンを置き忘れても、誰かが拾って届け出てくれるケースが多いことなどが挙げられるでしょう。実際、外国人労働者が日本へ来る際、「日本の治安は世界一」といった期待を抱いていることは少なくありません。
しかし、この「安全神話」と外国人労働者のリアルな暮らしとの間にギャップが生じる場面もあります。たとえば、大都市圏では空き巣や自転車盗難、特殊詐欺(振り込め詐欺など)が依然として発生していますし、外国人労働者が集団で住む地域においては、差別的な言動や嫌がらせが起きる例も報道されています。つまり、“日本全体の治安が良い”というイメージが、必ずしもすべての地域やコミュニティに均質に行き渡っているわけではないのです。
また、統計上は犯罪発生件数が少ない日本でも、被害者となるリスクがゼロではありません。特に、言語の壁や生活習慣の違いを抱える外国人労働者が、犯罪者に狙われやすい状況に置かれることもあり得ます。そうしたリスクを正しく理解し、対策を講じる必要があるのです。
出典:警察庁「令和5年の犯罪情勢(令和5年版犯罪白書に準じるデータ)」
(https://www.npa.go.jp/publications/statistics/crime/situation/r5_report.pdf)
外国人労働者が注意したい犯罪やトラブル
日本の治安は世界的に見ても依然として高い水準にあるとされていますが、外国人労働者が特に注意すべき犯罪やトラブルは実際に存在します。ここでは、代表的な事例を挙げつつ、その背景にある要因を探ってみましょう。
特殊詐欺やネット詐欺への巻き込まれ
特殊詐欺は高齢者だけの問題と思われがちですが、外国人労働者をターゲットにした手口も確認されています。たとえば、「母国への送金を格安で代行する」「在留資格の更新手続きを低価格でサポートする」といった名目で金銭をだまし取るケースです。
言語の壁や書類手続きへの不安を逆手に取られることがあり、被害額が数十万円におよぶこともあります。また、SNSやメールを通じて「助けてほしい」と頼まれ、友人や知人だと思い込んで送金してしまうネット詐欺にも注意が必要です。
窃盗・空き巣・自転車盗難
日本は「置き引き」や「スリ」の被害が諸外国に比べて少ないとされる一方、大都市の繁華街や観光地などではスリやひったくりが発生することがあります。さらに、治安が良いと信じすぎて、ドアや窓の施錠を甘くしたまま外出してしまい、空き巣被害に遭うケースも報告されています。自転車盗難も、外国人労働者が多く暮らす地域で頻発しているというデータがあります。
差別的行為・ハラスメント
日本では、海外と比べて大規模な人種差別事件が少ないと言われる一方、外国人労働者に対する差別的な言動やハラスメントがまったく無いわけではありません。たとえば、言葉が通じないことを理由にサービスを拒否される、あるいは職場や近隣住民から偏見を向けられるなど、日常生活のなかでストレスを感じる場面が存在します。こうした差別やハラスメントは、犯罪として認知されにくい一方で、精神的なダメージを与える深刻な問題です。
なぜ外国人労働者が狙われやすいのか
● 言語の壁
犯罪被害に遭っても警察や行政に相談しづらい、あるいは自分が置かれた状況を正確に説明できない。
● 文化・法律への理解不足
日本の法律や生活習慣を十分に把握していないため、詐欺や悪質業者に付け入られる可能性がある。
● コミュニティの孤立
周囲に相談できるネットワークが少ないと、被害を受けたときにサポートを得られない。
このように、外国人労働者は生活面や情報面での弱点を狙われやすく、それが犯罪リスクを高めてしまう要因となっているのです。企業や行政が率先してサポート体制を整えることはもちろん、外国人労働者自身にも「日本の治安は絶対的に安全」と思い込まず、適切な防犯意識を持つことが求められます。
外国人労働者を守るために企業ができること
外国人労働者が安全に働き暮らせる環境を整えるには、企業が重要な役割を担います。ここでは、実際に企業が導入している取り組みや、有効とされる具体的施策を紹介します。
防犯講座の実施
社内研修やオリエンテーションの一環として、防犯講座を実施する企業があります。警察や自治体の協力を得て、以下のような内容を解説するケースが典型的です。
● 基本的な防犯意識の共有
鍵のかけ忘れを防ぐ、深夜の外出を避ける、怪しい電話やメールへの対処方法など。
● 日本の警察や行政サービスの利用方法
緊急時の電話番号「110」の使い方、多言語対応窓口の存在など。
● 在留資格に関わる書類手続きの注意点
詐欺被害を防ぐために、行政書士や専門機関以外に依頼しないなどのポイント。
こうした講座を外国語で受講できるように工夫したり、通訳を手配したりすることで、外国人労働者の理解度を高めることができます。
防犯ガイドの提供
講座だけでなく、常に参照できる「防犯ガイド」の提供も効果的です。多言語(英語、中国語、ベトナム語など)で作成し、以下のような情報を掲載するケースがあります。
● よくある詐欺・トラブル事例と回避策
● 警察や行政の問い合わせ先、相談先一覧
● 非常時に役立つ日本語フレーズのリスト
● 火災や地震など災害時の安全行動マニュアル
最近では、ウェブサイトや社内ポータルにPDF形式で掲載したり、スマートフォンのアプリを活用して緊急連絡先をまとめたりする企業も増えています。
住居選定のサポート
外国人労働者が直面する大きな課題のひとつに「住居探し」があります。言語の問題や保証人の確保など、ハードルが高いことは少なくありません。安全なエリアや、外国人への対応がスムーズな不動産仲介業者を紹介することで、犯罪リスクを低減するサポートを行う企業もあります。
日本企業の事例
株式会社フラットエージェンシーのケース
京都市の不動産業者である株式会社フラットエージェンシーでは、外国人留学生向けのサービスを強化するため、中国人留学生を営業職として採用しました。彼らは母国語での対応や、自身の経験を活かしたきめ細かなサポートを提供しています。
小倉鉄道株式会社のケース
福岡県の小倉鉄道株式会社では、外国人社員の住居選定を支援するため、住居候補エリアの治安情報を簡潔にまとめた資料を提供しています。希望があれば、不動産仲介業者とのやり取りにも通訳を手配し、契約内容をしっかり理解した上で入居を決めてもらうようサポートしています。
こうした企業努力によって、外国人労働者が安心して暮らせる環境を提供する取り組みが進んでいます。
出典:経済産業省「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック」
(https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/ryugakusei_katsuyaku_pt/pdf/20200228_01.pdf)
外国人労働者ができる日常的な安全対策
もちろん、企業や行政のサポートだけでなく、外国人労働者自身が主体的に防犯意識を持つことが欠かせません。ここでは、日常的に取り入れやすい安全対策を紹介します。
防犯ブザーやスマートフォンアプリの活用
夜間の外出時や人通りの少ない場所を移動するときには、防犯ブザーを携帯すると安心です。大声を出せない状況でもブザーを鳴らすことで周囲の注意を引き、被害を未然に防げる可能性があります。また、スマートフォンの地図アプリや防犯アプリを活用し、危険とされるエリアを避けるようにすると効果的です。
近隣住民とのコミュニケーション
言葉の壁を感じるかもしれませんが、地域社会とのつながりを持つことで、犯罪リスクを下げることができます。たとえば、ゴミ出しや町内会のイベントに参加し、顔なじみの住民を増やすことがポイントです。困りごとがあったときに相談できる相手がいるかどうかで、安心感は大きく変わります。
SNSやインターネット情報の使い方に注意
詐欺やトラブルは、SNSやメール、オンライン掲示板などをきっかけに起こるケースが増えています。友人や知人だと思い込んでメッセージに応じたり、個人情報を安易に公開したりする行為はリスクを高めます。見知らぬ相手からの連絡で金銭や個人情報を要求された場合は、必ず誰かに相談してから判断するようにしましょう。
日本語力の向上と法律・ルールの学習
日本の法律や社会ルールを知らないと、犯罪の標的になるだけでなく、自分自身が知らず知らずのうちに法律を犯してしまう可能性もあります。最低限の日本語力を身につけ、生活する地域の条例やマナーを学ぶことが、自身の安全を守ることにもつながります。
まとめ
日本は世界的に見ても治安が良く、安全な国と評価されていますが、その「安全神話」がすべての外国人労働者に当てはまるわけではありません。言語の壁や文化的背景の違いから、詐欺や窃盗、差別的行為などに直面するリスクが存在し、必ずしも安心・安全な生活を送れるとは限らないのが現実です。
しかし、企業が防犯講座や多言語でのガイド提供、住居選定のサポートといった取り組みを進めることで、外国人労働者にとっての犯罪リスクを大幅に下げることが可能となります。また、外国人労働者自身も防犯ブザーの携帯やSNSの利用方法の見直しなど、日常的な対策を講じることが求められます。さらに、行政や自治体が多言語相談窓口を充実させたり、地域住民が積極的に外国人とコミュニケーションを図ることで、孤立感をなくしていくことも大切です。
日本社会全体が、外国人労働者を単なる労働力としてではなく、同じ地域で暮らす大切なコミュニティのメンバーとして迎え入れるためにも、新しい「安全」の形を築いていく必要があります。外国人労働者が安心して働き暮らせる環境は、企業の成長や社会の多様性を高めるうえでも大きなメリットをもたらすでしょう。
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